

重延浩
洋画★シネフィル・イマジカ ゼネラルプロデューサー
(株)シネフィル代表取締役会長
(株)テレビマンユニオン代表取締役
※編集協力 洋画★シネフィル・イマジカ スタッフ一同
「CSは多メディアの原点である。」洋画★シネフィル・イマジカ10周年記念レポート
毎年カンヌで4月にMIPTV、10月にMIPCOMというテレビジョンのマーケットが開かれる。今年10月、このMIPCOMの初日に、私は10年前から手に入れたいと思っていた1,200本の映画を買った。1,200本と言って驚かせてしまったが、実は、1本が8秒のショートフィルムである。8秒ごとに大爆笑する喜劇である。しかし、私は良質のショートフィルムが、放送だけではなく、インターネット、そして携帯に適応する新しいコンテンツであると信じていた。その夢を10年かけて、今年果たしたのである。
カンヌから日本に帰る前に私はパリで知己のハンガメ・パナヒさんに会った。ハンガメさんはホウ・シャオシェンや、北野武や、是枝裕和らアジアの監督の映画をヨーロッパに紹介し、成功させたセルロイド・ドリームスの辣腕の代表である。彼女に、私がかつて高くて手が出なかった1,200本のベルギーのショートフィルムを、思い切って購入してしまったことを話すと、興味深そうに、誰の作品かと聞いてきた。それがベルギーの異色の作家マーク=アンリ・ウォンバーグ(Marc-Henri Wajnberg)監督による『クラップマン Clapman』という作品であると語ると、飛び上がらんばかりに喜んだ。「それよ!そのショートは私が最初に買った作品よ!」。こうして互いの感性の一致を一瞬にして理解しあった。
その作品を、次なる10年を迎える洋画★シネフィル・イマジカで、2007年4月から放送開始する。洋画★シネフィル・イマジカから始めて、私はそれを新しいメディアにも展開する予定である。
さらに私は、スティーブン・スピルバーグが2005年に製作し、TNT(Turner Network Television)で放送した西部開拓史『イントゥ・ザ・ウエスト Into theWest』をBS日テレと共に購入した。スピルバーグが、白人とネイティブ・アメリカンの家族交流を、事実にできるだけ近く、劇化したもので、アメリカで2時間×6本のシリーズとして放送され、高い評価を得た。白人の迫害をかなりリアルに描くシリアスなドラマで、白人の圧制を暴く社会派の作品でもあり、人種を超え互いに理解しあえるという人類愛をも標榜する作品である。地上波は放送しないと予測したので、私はスピルバーグ作品の製作会社「ドリームワークス」に放送直後から連絡を取った。しかしCS一社で購入しきれる契約金の額ではない。私はBS日テレの編成に企画書を書き、BSとして関心があるかの返事を待った。そのBS日テレから、今年十一月から放送を行いたいという好意的提案があり、しかもその六ヶ月後にCSで洋画★シネフィル・イマジカが放送することも認めてくれた。購入代理店の東北新社が私たちの熱意を理解してくれて、「ドリームワークス」との交渉が成立し、契約の快諾があった。もちろんメディアのウィンドウとしてはBS日テレを優先し、CSの洋画★シネフィル・イマジカは二次的放送だが、日本語字幕は分担して制作し、CSでの1年間の放送を認めてもらった。こうして、なんとかCSの予算内で、望む映画を放送することができることになった。一つ一つ誠意を持って、お客さまに見てほしい映画を編成する。それがBSやCSの魂であると確信している。いずれ、その誠意は理解されるだろう。
10年前はCSこそ、新しい冒険的メディアの象徴だったが、今や、メディアは急激な変化を遂げた。しかし、優れたソフトは、どんなメディアでも優れたコンテンツである、と私は思う。この私の原則は最初から決して変わらない。こうしたソフト論を、敢えてCSから、新コンテンツ論・新メディア論として語ってみたい。急激に求められる新しいコンテンツ制作、新しいコンテンツ流通に、原点のないソフト論の危険を感じるからである。
メディアは、携帯端末の急増とその劇的な市場競争に向っている。いきなり9,000万人を超えるような新しいメディアが急成長している。しかし、今年 1,000万の視聴可能世帯に到達したCSという放送事業が、こうした新しいメディアに先駆ける変革を実現し、これからのメディアに対するある種の経験則を確保してきたことも事実である。この経験則を価値あるものとして、敢えて今、CS放送の産業と文化論を記録しておく。私たちは10年間、洋画★シネフィル・イマジカというCS放送の編成を実はひそかに楽しんできたのだから…。
シネフィル・イマジカのアイデアが生まれたのは、(株)イマジカの長瀬文男代表取締役社長が、テレビマンユニオンを訪れたときから始まる。
かつてイマジカがまだ東洋現像所という社名で、ビデオのポストプロダクション事業を業界に先んじて発展させようとしていたとき、放送局を離れ、独立制作体制をとったテレビマンユニオンは、ポストプロ制作の新しいあり方を東洋現像所ビデオセンターと共に考えた。
こうした共感がイマジカとテレビマンユニオンに今も残っていて、CSという多チャンネル放送が生まれるとき、真っ先にそのチャンネル内容の相談に来たのが、長瀬文男社長だった。私との会談は、CSというものの未来像と、何が成功するソフトかという議論から始まった。CSははじめての本格的多チャンネル放送であり、地上波のデジタル放送をはるかに先駆けたデジタル放送だった。話題はいくつかのソフト観に飛躍したが、映画チャンネルにしようという結論は早かった。二人とも無類の映画ファンだったからである。
しかし、普通の映画チャンネルでは面白くない、というより勝ち目が無い。2社とも映画配給は本業ではない。海外の映画配給に先んじている会社を抜くことは不可能と判断した。それ故、映画の種類を「クオリティフィルム」とした。クオリティフィルムとは、作家性のある良質の作品であると定義した。世界の映画が、たくさんの良質の作品を生み出しているのに、映画の劇場は、それを上映しきれない。そこにヒントがあった。ハリウッド映画だけが映画ではない。もっとほかの優れた映画を見たい観客が潜在している。
CSは多チャンネル放送である。地上波より、はるかに専門的志向のソフトが求められるのではないか。インディペンデントの映画製作、アートハウス系の劇場の存在、数多くの国際的映画祭の存在を考えると、今の地上波、映画館では提供できない映画を贈ることができるのではないか。こうした夢は、長瀬、重延の共通のもので、決定は早かった。「オリジナルの映画チャンネルを作ろう!」、こうしてシネフィル・イマジカは誕生した。
1996年10月1日、日本初のCSデジタル放送「パーフェクTV!」が57チャンネルで放送を開始した。CSデジタル放送開始から、シネフィル・イマジカ(現 洋画★シネフィル・イマジカ)は参加した。
シネフィル・イマジカは、できるだけ小さな放送局にしようとした。放送のオペレーションはイマジカの品川送出センターで行われるが、編成業務はテレビマンユニオンの小さな部屋で始まった。6人で満杯になる小部屋である。そこにイマジカとテレビマンユニオンの混成チームが座り、編成、購入、宣伝活動が始まった。このチャンネルより数倍もの編成・制作費をかけ、大きく宣伝しながら出発したチャンネルもあったが、シネフィル・イマジカは規模を制限した。パーフェクTV!には、最初6万人ほどの契約者しかいなかった。なら、6万人向けの放送に限定して編成する。月曜日と火曜日はたった1本の映画しか放送しなかった。それをロードショー放送と称し、お客様の好きなときに見てもらった。クレームはひとつも来なかった。そして静かに好機を待つこととする。
キーワードは「映画を愛するチャンネル」だった。映画には人生があり、愛があり、哲学がある。そんな映画好きの集まりだから、「映画を見せるチャンネル」ではなく、「映画を愛するチャンネル」なのである。だからチャンネル名は「シネフィル」になった。「シネ」は映画で、「フィル」は「愛」である。映画を愛するお客さんと歩むシネフィルなのである。それにイマジカという事業者名を加えた。最初の現場スタッフは杉尾壮弘、池田高明らのイマジカスタッフと、重延浩、市川陽、高橋龍一らのテレビマンユニオンスタッフである。
編成のための会社も設立した。最初の株主は(株)IMAGICA、(株)テレビマンユニオン、日本ヘラルド映画(株)、(株)角川書店、(株)キネマ旬報社、(株)東洋コミュニケーションズだった。実務は(株)IMAGICA、(株)テレビマンユニオンが担当した。
編成は名画に限定し、作家性を重視した。監督、脚本、製作、撮影、音楽、美術そして俳優の優れた才能に着目する映画編成とした。年間平均400本近い長編映画を購入し、放送する。
映画の趣味は一人一人異なるものだが、私という一人の顧客でも個人的に満足している、こんな記憶にのこる映画がある。
『イントレランス』『国民の創生』『嘆きの天使』『舞踏会の手帖』『街の灯』『歴史は夜作られる』『第三の男』『凱旋門』『カサブランカ』『大いなる幻影』『市民ケーン』『レベッカ』『情事』『鉄道員』『靴みがき』『オズの魔法使』『雨に唄えば』『黄金の腕』『ぼくの伯父さん』『甘い生活』『ルートヴィヒ神々の黄昏』『軽蔑』『大人は判ってくれない』『突然炎のごとく』『男と女』『昼下りの情事』『荒馬と女』『アパートの鍵貸します』『十二人の怒れる男』『黒いオルフェ』『エデンの東』『ジャイアンツ』『処女の泉』『惑星ソラリス』『時計じかけのオレンジ』『地獄の黙示録』『愛の嵐』『ブリキの太鼓』『戦場のメリークリスマス』『ガンジー』『ベルリン・天使の詩』『ポンヌフの恋人』『薔薇の名前』『バグダッド・カフェ』『バベットの晩餐会』『イングリッシュ・ペイシェント』『髪結いの亭主』『眺めのいい部屋』『ショーシャンクの空に』『秘密と嘘』『ニュー・シネマ・パラダイス』『マディソン郡の橋』『恋におちたシェイクスピア』などなど。脈絡は無いが、これは個人的なプライベートシアターと言える。みんながひとりひとり自分のプライベートシアターを楽しめるのが洋画★シネフィル・イマジカである。
世に知られるヨーロッパやアメリカの素敵な名画を編成しつつ、さらにシネフィルならではの個性的映画特集を編成している。
映像詩人パラジャーノフの世界3作品(1996)、パトリス・ルコントコレクション6作品(1997)、クシシュトフ・キェシロフスキ監督特集『デカローグ』全10話ほか(1999)、チャップリン29時間主要17作品連続上映(2000)、ヤン・シュヴァンクマイエル監督特集(テレビ初紹介・短編)ほか(2000)、生誕100年ルイス・ブニュエル監督特集6作品(2000)、エリック・ロメール監督特集主要22作品10ヶ月連続上映(2002〜 2003)、ファスビンダー監督幻の大作『ベルリン・アレクサンダー広場』全14話連続上映(2003)、ジェームズ・リプトン司会『アクターズ・インタビュー』(2004〜)、MGM創立80周年記念ミュージカル特集(2004)、マフマルバフ・ファミリー特集6作品(2004)、テレビシリーズ『Mr.ビーン』CS初放送(2004〜2005)、ジャック・リヴェット監督特集7作品(2005)、エミー賞受賞『エンジェルス・イン・アメリカ』全 6章CS初放送(2005)、生誕100年記念グレタ・ガルボ特集5作品上映(2005)、ゴダール『映画史』一挙放送(2005)、没後10年ルイ・マル監督10作品一挙上映(2005)、没後50年ジェームス・ディーン特集・全主演作品上映(2005)、生誕100年ビリー・ワイルダー監督特集(2006)。これは映画ファンにとって、見逃してしまったことをきっと後悔する自慢の企画である。
なぜその映画を放送するか、その映画の見所を伝えるために、シネマリップという映画紹介コメントを映画の冒頭に冠した。それは既成の映画評論家の言葉ではなく、シネフィル・スタッフの手作りの言葉で構成した。
映画の中でのCMは廃止した。すべてノーカット、ノーCMを原則とした。原語を重視し、吹き替えを原則的に避けた。それをすべて「映画を愛するお客様へのサービス」と考えた。
シンボルマークは(株)リンクス〈現(株)リンクスデジワークス〉の木村卓がデザインした。月は銀幕を意味し、映写機にフィルムがかかっているようにも見えるのは視線。そんなチャンネルでありたいという思いがこめられている。
海外には作家性や娯楽性の高い短編映画が多く、それが長編映画の監督になる登龍門になっていた。その短編を放送した。開局当時、短編を購入するノウハウはなく、まさにゼロからの出発。加えて、日本では〈短編映画〉という言葉自体が“マイナーな映像作品”というイメージだった。“新しい短編映画”のイメージ作りから始めた。視聴者からの反響に比例して、年々放送する作品数は増え、今では毎年元旦の朝から24時間かけて百本の秀作ショートを一気に放送する人気企画まで行っている。世界でもこの規模で継続して短編映画を放送しているチャンネルはシネフィル・イマジカだけである。今や購入した短編は1,000本をこえる。このシネフィル・イマジカでのショートフィルムの編成は、後の数々のショートフィルム・フェスティバル、ショートフィルム・コンテストの先鞭になった。
日本の劇場で上映されなかった優れた作品を直接、欧米のプロデューサーや配給代理店から購入して放送した。国際賞を受賞した作品が、なかなか日本では上映されないことがある。優れた映画監督の初期の作品、実験的な作品も日本では未公開だったりする。こうした映画を丁寧に発掘し、直接契約をし、日本語字幕を作り、放送する。こうした活動は、地味ではあるが、ほんとうに映画を愛する人たちとって、重要な鑑賞機会になる。こうしていくつかの注目すべき作品が「シネフィル・プレミア」(現「シネフィル直輸入映画」)として購入された。
イラン映画の中でも人気の高いバフマン・ゴバディ監督の『酔っぱらった馬の時間』(2000)は、ミニシアター作品としてヒットする一年前にシネフィル・イマジカで初放送された作品だった。これ以外にもシネフィル・イマジカでの放送後に劇場公開された作品は多く、また、「シネフィル直輸入映画」を見た視聴者が劇場公開を望み続ける作品もたくさんある。例えば、カンヌ国際映画祭がその才能に惚れ込み、常連監督として迎え入れているトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン(『冬の街』で同映画祭グランプリ受賞)の全作品は、シネフィル・イマジカだけが日本に紹介している世界の新しい巨匠の作品群の一例である。この 10年で紹介した直輸入映画は300本を超える。
2003年10月からはドキュメンタリーの放送も始めた。マイケル・ムーア監督の『ボウリング・フォー・コロンバイン』、『華氏911』(洋画★シネフィル・イマジカで放送決定)はじめ近年、『Death of a President(原題)』(ブッシュ大統領が暗殺されたケースを仮想したもの)、『不都合な真実』(元米国副大統領アル・ゴアが主演した環境ドキュメンタリー)、『The U.S. vs. John Lennon(原題)』(平和反戦家としてのジョン・レノンのドキュメンタリー)など、ドキュメンタリーが映画界の話題を呼んでいる。洋画★シネフィル・イマジカでは2003年10月から、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を最初の作品としてドキュメンタリー映画も積極的に編成することにしている。主な放送作品は『ワン・プラス・ワン』、『ハーヴェイ・ミルク』(アカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞)、『デブラ・ウィンガーを探して』(CS初)、『スペシャリスト/自覚なき殺戮者』、『アメリカン・ニューシネマ 反逆と再生のハリウッド史』、『マーティン・スコセッシ 私のイタリア映画旅行』(テレビ初)などで、『ベルリン・フィルと子どもたち』(2007年/CSベーシック初)、『スーパーサイズ・ミー』(2007年度/CS初)なども予定されている。
シネフィルのサウンドロゴを清水靖晃氏に委嘱し、映像は当時からPVで活躍していた守屋健太郎ほか多くのディレクターの参加を仰いだ。またこのサウンドロゴへの視聴者からの問い合わせは多く、後に、『cinefil』というCDアルバムを発売するに至った。またジングルほか選曲などチャンネル全体を通底するグラフィック、サウンドのイメージの統合化は、チャンネルをひとつのストリームとしてとらえた時、常にひとつのイメージとして定着するのに役立った。
『シネマ・アイ』という情報番組も続けている。第1回はケヴィン・コスナーの来日会見だった。CSでこれを始めたのはシネマ・アイ。以後、精鋭ディレクターたちによるインタビュー中心のウィークリー番組として、最新映画情報を提供。三池崇史、リリー・フランキーがまだブレイクする前から目をつけていたのもシネマ・アイ。韓流ブレイクを見越して、2000年、韓国のプサン国際映画祭にもいち早く乗り込み、韓国映画の魅力をリポートしていたのも『シネマ・アイ』である。
2003年9月までのインタビュー出演者は黒沢清、是枝裕和、行定勲、ジョシュ・ハートネット、ウィル・スミス、アルフォンソ・キュアロン、フェルナンド・メイレレス、チャン・ツィイー、アンディ・ラウ、チャン・イーモウ、ジェット・リー、チェン・カイコー、トニー・ガトリフ、アン・リー、アキ・カウリスマキ、テレンス・スタンプ、パトリス・ルコントなどである。
2003年10月からユニークな視点を持つ映画ファンとして、人気のはなさんがナビゲーターとして登場。2005年7月からはな+脚本家・佐藤善木のトーク形式に。ふたりが映画好きのカフェ常連客と映画の知恵袋“シネ☆マスター”に扮し、cafe CINEMA EYEを舞台に楽しく熱い映画談義を繰り広げる。モデルという職業柄、そのライフスタイルが常に注目されているはなさんの独特の映画の見方と、個性的映画の専門家という組み合わせで、他にはない映画情報番組を目指している。
情報番組としてカンヌ国際映画祭の取材を始めたのは、CSではシネフィル・イマジカが最初である。世界最大の映画祭カンヌ国際映画祭を1997年5月第 50回から取材開始。取材スケールにおいてテレビでは地上波NHKかシネフィル・イマジカか、というほど業界トップ級。1日平均単独インタビューが4〜5 本、記者会見取材が2〜3本、レッドカーペット撮影が2〜3回。期間中2週間の取材は70本以上。単独インタビューはマイケル・ムーア、ティム・ロビンス、ソフィア・コッポラ、ガエル・ガルシア・ベルナル、エイドリアン・ブロディ、ラース・フォン・トリアー、宮崎あおい、役所広司、アトム・エゴヤン、ピーター・グリーナウェイ、フランソワ・オゾン、シャーロット・ランプリング、ガス・ヴァン・サントほか多数。
海外のPR会社、日本の配給各社の間でも、“日本のカンヌ取材(TV)と言えばシネフィル・イマジカ”というイメージが、ここ数年間の取材ですっかり定着した。開局10周年を記念し、HDにて取材開始。日本からの唯一の正式参加となった西川美和監督『ゆれる』を総力取材した。
映画と映画のインターバルをどうするか、ということも当初からの重要な案件だった。EPG(録画予約もリモコンで簡単にできる電子番組表)機能を十分に使いこなせない視聴者もいるのではないか。その日何時からどんな映画が上映されるか、タイム・テーブルを、まるでヴァーチャルの映画館で見るように、静止画像のCGに載せ、音楽をかけて表示したら、と考えた。見た目には退屈な時間だけれど、視聴者にとっては大事な情報では?という提案が支持され、当初「シネマ・ヨーン(あくび)」と呼ばれたインターバルのコーナーが制作されることになった。今では「シネマ・ジーン(遺伝子)」と「改名」している。あくびをしている暇がなくなった。
洋画★シネフィル・イマジカは、今は「スカパー!(260ch)」「スカパー!110(224ch)」「BBTV」「MOVIE SPLASH(旧光プラスTV)」「4th MEDIA」「オンデマンドTV」など多くのメディアで放送・配信されている。映画を愛するファンには、全員に契約してほしいと願っている。もちろんJ: COMなどケーブルTVで視聴できる。
CS 放送は、通信衛星を使って家庭の受信機に電波を送る有料放送である。その放送がケーブル放送等の契約も含めて、2006年7月に1,000万件に達した。ケーブルテレビ局系経由が600万世帯以上、スカパー!加入者が400万弱である。予想より遅れた1,000万達成だったが、ここまで来たCSの歴史を、特に誕生に立ち会った人々は感慨を持って迎えたであろう。
2006年7月中旬から8月上旬にかけて、朝日・読売・毎日新聞(全国)などに、社団法人衛星放送協会が「有料放送には理由がある」という見出しの広告を出稿した。1,000万人の加入者に選ばれた喜びと感謝を伝えたかったのだろう。広告のコピーは清純である。
「地上波にはない番組をやっているから。専門チャンネルが揃っているから。ご加入いただいた理由はさまざまです。しかし、有料であるにもかかわらず、これだけ多くの方に支持されているということは、勇気づけられていると同時に、今後より良いコンテンツを提供しなければならないと責任の大きさを感じます。ごらんいただいた方に『お金を払った価値がある』と実感していただくために。」この初心が重要であることを最初に述べておく。
CSは多チャンネルとして、地上波には無かった映画専門チャンネル、音楽専門チャンネル、アニメ専門チャンネル、スポーツ専門チャンネル、外国語チャンネルなどを実現した。地上波とは別のCSという放送の概念は、日本の既成の放送観を変革した。今やスポーツファン、映画ファン、音楽ファン、アニメファンは明らかにメディアの中で拡散している。CSの全チャンネルの視聴率を合算すると、地上波の視聴率に少なからずの影響を与えている。
今、時代はインターネットやモバイルに事業価値を移行しようとしているが、CSに生まれ、育ったモデルは、実は他の新しいメディアにもかなり価値あるものである。その認識を過小評価することは無い。CSでのサバイバー(生き残り)のリアルな洞察力が、厳しい経験を経て、秘かに鍛えられているのだ。
スカイパーフェクト・コミュニケーションズは2006年10月現在、289チャンネルで、番組を送信している。各CSチャンネルの総加入世帯数を見ると、アニメのキッズステーション、スポーツのJ SPORTS(全4チャンネル)、音楽のスペースシャワーTVがリードし、映画のムービープラス、ニュースの日経CNBC、音楽のMTV、アニメのアニマックス、スポーツのGAORAが続く。これはケーブルを通したCSチャンネルへの加入を反映していて、上位のチャンネルはケーブル視聴の上位ということでもある。ケーブルテレビに遅く参加した洋画★シネフィル・イマジカは総加入世帯数で、トップ50に入り、ケーブル視聴では44位である。CSを通信衛星で直接見るDTHの視聴世帯数では、1位にフジテレビ721&739がランクされ、アニメと音楽と映画とドラマとニュースのチャンネルが続く。アニマックス、キッズステーション、スペースシャワーTV、ムービープラス、ファミリー劇場、MUSIC ON! TV、日本映画専門チャンネル、チャンネルNECO、AXN、FOX、カートゥーンネットワーク、スカイ・A、時代劇専門チャンネル、TBSニュースバード、MTV、ディスカバリーチャンネル、そして18位に洋画★シネフィル・イマジカと続く。洋画★シネフィル・イマジカはかなりの善戦である。洋画★シネフィル・イマジカの事業は平成13年から単年黒字となり、設立時からの累積赤字も解消している。小さいチャンネルが、魅力あるブランドを持てばCS放送というメディアで成功できるのである。
ショッピングチャンネルはCSでの成功ジャンルである。ジュピターショップチャンネル(株)による「ショップチャンネル」は2005年に売上実績761億円、「QVC」も580億円と言われる。「コジマショッピングTV」、「MALL OF TV」、「楽天ショッピングチャンネル」など10チャンネルが競っている。原則24時間生放送という編成はある意味では新しい放送概念である。地上波は、広告時間が限定されているから、非地上波でこそ編成できる新しいモデルのチャンネルとなった。顧客の85%は女性とか。ジュエリーや化粧品販売の成功を生んでいるという。これはCSの成功ともいえるが、やはりケーブルへの再送信が成功の要因となっている。このショッピングチャンネルは、モバイルや、ネットへの転用が可能だから、多メディア的チャンネルと言える。
アニメーションを編成するチャンネルが総加入世帯獲得をリードする。ケーブルを含めると、キッズステーションが約750万、アニマックスが620万、カートゥーンネットワークは520万である。CSチャンネル中、総加入者で第1位のキッズステーションは、2010年にはCS界初の1,000万件加入を目指すという。ブランディングも優れていて、2006年の編成方針は子供の能力開発の支援をするとか、『よみきかせ日本昔ばなし』など愛・正義・勇気や友情・思いやり・やさしさを含むコンテンツを提供するというような現代的哲学を持っている。アニマックスも成功チャンネルで、進歩的発案をする。ラテンアメリカや韓国への海外展開も行う。今年クリスマスイブに、旧ソビエト連邦時代、ロマン・カチャーノフが製作した幻の人形アニメ『チェブラーシカ』4本を放送するという。CSらしい企画である。
韓国専門チャンネルは3チャンネル(KNテレビジョン、ニュースを生放送するKBSWORLD、韓国音楽チャンネルのMnet)が稼動し、安定した契約者を確保している。
韓国ドラマは一時期のブームからさらに継続的ブームになっていて、CSだけでも4チャンネル(SheTV、ホームドラマチャンネル、LaLa TV、アジアドラマチックTV★So-netなど)の重要なコンテンツになっている。最近では韓流ドラマの後を狙って、「華流(台湾)」ドラマも放送が開始されている。
ニューズ・ブロードキャスティング・ジャパン(株)は、十月からスカパー!で「サスペンスシアタFOX CRIME」を開始した。当初多チャンネルを標榜する先駆的日本進出を図り、11チャンネルを運用していたが、2003年に「FOX」と「ナショナルジオグラフィック チャンネル」2チャンネルに削減していた。しかし2005年にケーブルTVで「FOXlife HD」をはじめ、さらに日本で新戦略を展開しようとしている。米国で人気の公開オーディション番組『アメリカン・アイドル』は、米国での放送一週間後に日本での放送を実現。この他にも『24』など大ヒットドラマや、五人組のゲイがさえない男性をプロデュースする『クィア・アイ』など注目されるコンテンツを持つFOXの今後のチャンネル編成は注目される。
WOWOW が、BSに加えて、現在参加しているスカイパーフェクTV!110から、より大規模なスカイパーフェクTV!に参加した。今までライバルと考えられていた CSの市場にWOWOWが参加するのは、110度の顧客に加え、さらに専門性を好むスカパー!で新しい顧客を獲得できるという判断だろう。一方スカパー!にしてみれば、WOWOWが加入し、スカパー!にとって、WOWOWという知名度のあるチャンネルが生まれることは総加入数の増加につながるのではないかという期待である。かつて、ライバルと言われたWOWOWとCSデジタル放送の画期的同調で、新しい展開が生まれるのは面白い。既成の概念にとらわれていてはいけないということである。
CSの面白さは、特異なチャンネルを見つけることで、「囲碁将棋チャンネル」や「釣りビジョン」のファンも多いが、私は「ディスカバリーチャンネル」「ナショナル ジオグラフィックチャンネル」「ヒストリーチャンネル」などのドキュメンタリーチャンネルに加えて、秘かに「リアリティTV」なども覗いている。
日本映画専門チャンネルの「24時間まるごと○○」企画もCSならではの編成だし、時代劇専門チャンネルは高年配者用に文字が大きく見やすいプログラムガイドをつくり、視聴者の求めに応じた丁寧な顧客サービスをしているのも注目される。
舞台中継、ダンスパフォーマンス、オペラ、アートドキュメンタリーにこだわってきたシアター・テレビジョンは、私が秘かに尊敬するチャンネルである。休刊中の雑誌「噂の眞相」の編集長岡留安則氏を顧問に迎えたニュース番組『TVウワサの眞相』など独自の製作番組に取り組むニュースチャンネル、朝日ニュースターなどの貴重な存在価値も忘れてはならない。
新メディアの特徴だが、アダルトがCSの産業的発展に果たした役割も大きい。
地方の姫路発の「GLC24時間英会話チャンネル」は姫路市の燃料販売会社ダイネンが配信している。総加入者が130万、2003年に単黒となったという。VOD、さらにアジア全土へ、インターネット配信も考えるという積極性を持っている。
洋画★シネフィル・イマジカは2006年の10周年を記念し、これからの10年につながる企画を考えた。人気の高いチェ・ゲバラの若き日を注目のスター、ガエル・ガルシア・ベルナルが演じ、単館系で大ヒットした『モーターサイクル・ダイアリーズ』をCSベーシック初放送し、ゲバラのドキュメンタリー『トラベリング・ウィズ・ゲバラ』と『チェ・ゲバラ―人々のために―』を併せて構成した。
また、10周年を記念して、初めてウェブサイト上に「シネフィル直輸入映画」で放送した全313作品を検索できるデータを一斉掲載し、視聴者や一般の映画ファンに「もう一度放送して欲しい映画」「いま観てみたい映画」への投票を募った。ワールドシネマのファンには垂涎の作品揃いのラインナップに、予想を超える投票数と、放送作品やチャンネルを支持する視聴者の熱い声がたくさん寄せられた。日頃、目には見えない視聴者を相手に試行錯誤している映画チャンネルとして、10年目の区切りに行った企画は、新鮮な手応えと視聴者が期待する「“シネフィル像”を、改めて意識する機会になる。投票の結果、第1位に選ばれたのはミヒャエル・ハネケ監督の『コード:アンノウン』(2000)だった。
さらに、9・11後のニューヨークの新しい文化の抬頭に注目し、ニューヨークの新しい映画祭として立ち上ったトライベッカ映画祭の初取材、特番の放送を行った。ロバート・デ・ニーロがこの新しい映画祭を支援している。19世紀末にエジソンが映画を発明して以来、ニューヨークという街はジョン・カサヴェテスやウディ・アレン、マーティン・スコセッシ、ジム・ジャームッシュ、ジョナス・メカス等の世界を牽引する映画人を輩出。ニューヨークは常に前衛・実験的で、何が飛び出すか分からないエネルギッシュな街であり続ける。
ニューヨーク映画祭のように、カンヌ他権威ある国際映画祭の冠作品を扱う(リスクを冒さない)映画祭とは違って、トライベッカ映画祭はニューヨークのインディペンデント精神を受け継ぎ次世代を積極的に育成する場としても意義深い。取扱い作品が250作以上もあり、独自の視点を持って作品をピックアップできる媒体でないと紹介しづらい映画祭。他のチャンネルではなかなか映画祭特集として取り組みにくい対象であり、洋画★シネフィル・イマジカならではの視点― その手腕が試されるところである。
さらに洋画★シネフィル・イマジカの個性が、全てのメディアに先駆けてリードしていくように、『クラップマン』『イントゥ・ザ・ウエスト』などの新企画を続々と単独交渉し、編成するという新しい構想を私は考えている。
洋画★シネフィル・イマジカには日々、視聴者の声が寄せられている。リクエストであったり、過日上映された映画の感想であったり。この視聴者からの声を、画面にそのまま反映させたらどうか、という将来の構想がある。それが地上波とは異なるCSの双方向交流である。私はCSは一種の文化サロンであると考えている。お客の一人一人と丁寧にメールの交信をしている。新しいメディアがどんどん増える時代に、こうした視聴者との交流の重要性は増すはずである。
CSにとって広報は生命線である。洋画★シネフィル・イマジカは2006年度より、これまでのようにチャンネルイメージを強く訴えていく広報に加えて、個々の映画の「良さ」や「価値」「面白さ」に興味を持ってもらう情報、そしてそれぞれの映画のすばらしさを「明るく、楽しく、素敵に」伝えることに重点を置いた新しい広報を計画する。広報は文字上のものだけではなく、東京国際映画祭協賛企画として「洋画★シネフィル・イマジカ on Screen」と題した名画座的上映会(二〇〇六年十月)、翻訳家戸田奈津子さんをゲストに迎えた特別試写会(2006年12月)など、視聴者との直接的な交流を図り、「シネフィル(映画を愛する人)」を増やす活動も継続的に行う。また『THE BLUES Movie Project』CS独占初放送を機軸にした、音楽チャンネルスペースシャワーTVとのライブイベント共同開催(2006年11月)のような他チャンネルとのコラボ企画、クロスプロモーションを実施することによって、新たな視聴者との交流を目指している。
また、2006年秋には洋画★シネフィル・イマジカ十周年を記念してイングマール・ベルイマン監督最後の作品と言われている『サラバンド』の配給・劇場公開も行った。(10月21日〜都内、以後全国に順次拡大ロードショウ)
イマジカからは「シネフィル」レーベルのDVDも発売している。『映画史』(ジャン=リュック・ゴダール監督)、『山猫』(ルキーノ・ヴィスコンティ監督)、『非情城市』(ホウ・シャオシェン監督)など、ヨーロッパ映画を中心に、名作、作家性の高い作品を提供し、累計発売タイトル数は415(現在発売中のタイトル数は230)に上っている。
「映画を愛するチャンネル」というチャンネルメッセージは、「洋画★シネフィル・イマジカ」が「それぞれの視聴者にそれぞれに愛する名画がある」ということを哲学としており、多様な価値観をもつ視聴者が、その多様な価値観をもったままチャンネルに参加してくれることが良いと考えた。そのため、日常のチャンネル編成を伝えるだけでなく、一歩進んで、チャンネルの編成意図、お客様のメッセージなどを織り込んだ冊子を季刊で発行することにした。「アン・カイエ・デュ・シネフィル」…。ちょっとおおげさな名前だが、かつての映画運動というよりは、そこには、チャンネルと視聴者、それぞれが書き込めるノートのような意味を込めた。無料で、申し込みがあった視聴者に送付されている。毎回この冊子には視聴者アンケートが添付されるが、とても多くの返信があり、それが私たちの編成の大きな力となり、私たち自身のすすむべき道の羅針盤としての役割をになっている。
さらに、洋画★シネフィル・イマジカ 10周年の感謝の心をかたちにしたいと考え、三菱自動車工業(株)、BOSE(株)協賛のプレゼント・キャンペーンを行った。主にチャンネル内での告知、ウェブサイトのみでの応募受付だったにもかかわらず、2ヶ月半のキャンペーン期間内での応募総数はのべ54、000件以上となり、広告媒体としてのCSの価値に大きな展望を示してくれた。
CSは、明らかに放送界の変革を生んでいる。映像放送を地上波に頼りきってきた文化のシェアを変化させたこと、地上波で見るだけの映像文化の種類を多彩にしたという功績。そして有料の映像文化がビジネスモデルになりうるということを証明した功績である。お客の一人一人の個性を知る。それがCSのライフラインである。その経験則が実は、インターネットの世界、モバイルの世界の経験則にも有効である。だからCSの成功者は新しいメディアにおいても、コンテンツの流通に実は強い。失敗を犯さない。妄想に走らない。そして的確な選択をする。
スカパー!の最新総登録件数は、2006年10月末現在で累計総登録者数が4,182,161名で、そのうち個人登録者数が3,595,412名である。スカイパーフェクTV!総登録者は3,717,472名、スカイパーフェクTV!110は405,240名、スカパー!光は18,562名、その他有線系サービスが40,887名である。2006年度の加入純増数は10月末現在で、4,106件と微増しているが、その増加は一時的に鈍化し、解約による変動も多いという現実も見逃せない。新規の個人契約数は33,452件(スカイパーフェクTV!が19、557件、スカイパーフェクTV!110が 11,962件、スカパー!光が1,333件、その他有線600件)である。〈(株)スカイパーフェクト・コミュニケーションズ発表資料による。〉
衛星放送協会が中心になって、1,000万突破キャンペーンが実施された。@CSの認知度の向上、A番組強化、B加入促進、C広告売上げのキャンペーンである。こうしたキャンペーンには、それぞれ課題も多いのだが、番組供給にかかわる私としては、Aの番組強化を重視したい。番組強化というより、むしろ各チャンネルのブランディングが重要というべきかも知れない。日本のCSには未だブランドが強力なチャンネルがない。つまりメディアをリードしていくようなスター的チャンネルが無いということである。アメリカのケーブルは明らかにスター的チャンネルが、加入を促進した。ニュースのCNN、ドキュメンタリーのディスカバリーチャンネルとナショナル ジオグラフィック チャンネル、スポーツのESPN、女性向けチャンネルOxygen TVやLifetime Television、映画のBRAVO、娯楽のコメディ・セントラル、アニメのNickelodeonなど、魅力的なブランドのチャンネルが並んでいる。それらのチャンネルはみな、すぐれた自主番組を制作している。日本のCSにも独創的で、自主製作をし、人気の高いチャンネルが必要だということである。日本のCSが、番組の調達、配給に頼っている間は、CSはほんとうの意味での個性的有料テレビになりえないのではないか。
しかし、番組制作の予算はほとんど無いという現実がある。ハードに予算の大部分をかけ、番組に費用をかけられないとしたら、CSは構造に問題がある。今の番組で、ほんとうに加入が促進できるのか、広告収入を上げられるのか。それだけではない。この構造が客に飽きられ、新しいメディアに顧客を奪われていくという心配はないのか。いまやYouTubeのような無償のコンテンツと競争しなければならない時代が迫っているのだから…。それに勝るには、やはり最良のコンテンツが必要ではないのか。最良のコンテンツなしに、すぐれたブランドは生まれない。日本のCSに誰が最初のスター的チャンネルを作れるのだろうか。
こうしたCSがなすべき課題に加えて、時代はすでに新しい変革をCSに求めている。CSのHD化も重要な課題である。CSがHD化のコストに対応できるかは、各チャンネルの大きな課題であろう。
総務省は、2004年7月21日の「衛星放送の将来像に関する研究会」の報告書(案)をまとめ、地上波アナログが完全に終了する2011年7月に、放送衛星(BS)アナログ放送も終了し、新たに最大42チャンネル分に当たる周波数をBSデジタル放送に割り当てるという方針を報告した。通信衛星(CS)の事業者や新規参入事業者を期待しての方針と推測される。CSの事業者が多数参加することも予測される。
衛星放送がHDを放送するための課題として、110度CSへの役務法の仕組みは不適当とし、委託放送事項変更手続きの簡素化、マスメディア集中排除原則による1事業者4中継器の緩和、新たなハード・ソフト一致の可能性も示した。
プラットフォームについて、そのガイドラインを見直せないかという、衛星放送協会、総務省、スカパー!、番組供給事業者、JSAT、有識者22社による「プラットフォームの在り方に関する協議会」の第一回会合が11月6日に開かれ、スカパー!は12月中旬に第一次案を提案する運びとか。これを協議した上、2007年2月には、新しいガイドラインが生まれる予定である。番組供給事業者から業務委託を受け、各チャンネルの課金やプロモーションを行っているスカパー!が、各番組供給事業者に対して、公平、中立、透明性を客観的にしていく時期と問われているようだ。そしてプラットフォームと番組供給事業者間の課題につき、有識者を交えた検討会が機能するようガイドラインに示されているが、その機能の実態も問われ、第三者的な機関の実態化が求められているようだ。
このプラットフォームとの協議は、スカパー!とJSATが経営統合する以上、さらに検討が加速されるだろう。
最後にCSの未来像を観測しておこう。2006年9月28日、スカイパーフェクト・コミュニケーションズは10周年パーティを開き、仁藤雅夫社長は 2010年に向けての本格的マルチプラットフォーム構想を語り、124/128度による2008年からのHDTV放送構想を発表した。124度のCSで 10チャンネルのHD放送である。「北京オリンピック」のタイミングを意識してのHD化といわれる。2009年にはさらに20チャンネル増やし、合計30 チャンネルのHDチャンネルが構想されるという。
HDで帯域が三倍になれば、トランスポンダのコストの耐えうるチャンネルがどのくらいあるか、慎重な計測が必要だ。MPEG4やH/264などの圧縮技術方式の導入で、新しい帯域政策とコスト計算が必要であろう。いつもハード先行のビジネス論が語られるが、HD化しても、良いHDコンテンツを維持できるかという経済性に守られた基本的なソフト論も忘れてはならない。
Bフレッツの各家庭への導入で光ファイバーのネットワークが構築されつつある。「スカパー!光」は光ファイバーを使った放送サービスで180チャンネルを提供できる。IPマルチキャストによる、マンションや病院での多チャンネル視聴も可能になる。多チャンネルマーケットを大きくして、新しいメディアを構成する。
スカパー!110はそのイメージを進化させるという。地上・BS・110度の3波共用受像機はアナログ停波とともにさらに販売台数の増加が期待される。
総務省「衛星放送の将来像に関する研究会」は10月12日、CS番組供給会社の再編を構想する方針を示し、11月11日、CS放送についての新しい方針を示した。
チャンネルについて、規制が緩和される。番組供給会社が今までより二倍以上のチャンネル数を持てるというものである。番組供給会社が持てるチャンネル数を増やすという規制緩和で、より規模の大きい新事業者が成立する環境を作ろうとするものである。地上波だけが放送事業の基幹を握るという構造を、アメリカ型のより多様なメディア企業の育成で、その地図を変え、産業、文化の両面で多様な新産業を構築したいという未来図であろうか。買収や合併以外にも事業譲渡という形でチャンネル獲得ができるプランで、中継器の保有数を12から倍の24に拡大できるようにするという。1中継器で最大6チャンネルと考えれば、一つの番組供給会社が144チャンネルというチャンネルを保有できるから、新しいメディア産業を大規模に構想できる。果たしてこれだけの良質なコンテンツを獲得できるかという懸念もあるが、その力のある地上波の中継器数は6に抑えるというから、地上波放送局による他メディアの独占的集中を避けるという総務省の研究会の意図がうかがえる。これに対し、どのような意見、反論があるかは注目していきたい。
洋画★シネフィル・イマジカの盟友株式会社イマジカと株式会社テレビマンユニオンは、いまそれぞれの新しいメディア戦略を始めた。
イマジカは、多チャンネルメディアが明確な嗜好性をもった専門チャンネルの集合であって、その中で1チャンネルから得られる事業としての成功には限界があることは予想した。まず最初に立ち上げるチャンネルは映画界へのリスペクトとして「洋画★シネフィル・イマジカ」以外には考えられなかったが、複数のチャンネルをオペレーションしてこそ本当の成功があるのだというイマジカの戦略だった。そこで洋画★シネフィル・イマジカを開局した翌年の1997年に第二のチャンネル「食チャンネル(現 グルメ旅★FoodiesTV)」を立ち上げ、2002年に「パイオニアカラオケチャンネル(現歌謡ポップスチャンネル)」を買収、2005年には日本初のホラー専門チャンネル「ホラーTV」を開局した。
海外では6,200万世帯に配信していた「FOOD NETWORK」があった。日本にはそのジャンルはなかったので、イマジカは、日本初の食の専門チャンネル、現「グルメ旅★FoodiesTV」を始めた。コンテンツのマルチユースを戦略として、100%自社製作番組で編成した。ローカル局への番組販売、VOD、モバイルへの配信、料理書籍の出版、調理器具の企画販売など、チャンネルを起点としたマルチ展開で成功した。カラオケチャンネルは新たなエルダー層の開拓を目的に、今年七月歌謡ポップスチャンネルへと転換した。2006年9月末の総加入世帯数は、グルメ旅★FoodiesTVが2,809,000世帯、歌謡ポップスチャンネルが 1,904,000世帯である。
株式会社イマジカは、映像製作会社ロボットと共同出資会社「バディーズ」を設立し、携帯電話用にゲームや短編映画などを配信する事業を進めていたが、 2006年4月1日から持ち株会社方式で経営統合し、アニメや映画などの映像制作能力を高めるコンテンツ開発体制を強化する方針を進め、さらに2006年 7月1日より、その政策を発展させて、「株式会社IMAGICA」と「株式会社ロボット」および「株式会社フォトロン」を中核事業会社にする、ホールディングカンパニー体制の「株式会社イマジカ・ロボット ホールディングス」へと商号を変更した。さらに株式会社IMAGICAのコンテンツ事業部門を「株式会社IMAGICAイメージワークス」に、デジタル放送事業部門を「株式会社IMAGICA TV」に、映像システム開発部門を「株式会社IMAGICAテクノロジーズ」に分社化し、総合映像企業集団としての体制をスタートさせた。
洋画★シネフィル・イマジカを統括する(株)シネフィルの社長には2006年7月より杉尾壮弘が就任した。
テレビマンユニオンは、2006年春表参道に引越し、国連大学のあるビルに移った。テレビ制作事業から映画、音楽、デジタルコンテンツにいたる事業にむかう経営事業本部が2007年4月からの新しい事業計画を準備している。
デジタル時代の放送において、日本の多チャンネルはさらに進行する。
CSが媒体に同居して加入世帯数を伸ばしているケーブルTVの成長率は大きい。ケーブルを通しての視聴と言われる形態は増大し、世帯比率50%を超えていく。しかし、アメリカの70%や、イギリスの50%という有料多チャンネル視聴に、日本はおよそ20%とまだまだ追いついていない。ハードとソフトの向上で、その領域を伸ばすことができる市場である。地上波の市場は強く、これからも地上波が放送事業をリードしていくだろうが、視聴率のシェアの変動が始まり、視聴形態も明らかに変化している。地上波独占の時代は終わり始めている。CSもプラットフォームとの新しい戦略、ケーブルとの連携、そしてインターネットや、モバイルの新しい潮流と市場をどう分け合っていくかによって、新しいメディアとの連携を考える時代である。これからはインターネット、モバイル、ポッドキャスティングなどによる有料、無料視聴が混在し、まさに多様な視聴体系ができる。多チャンネル視聴は、多様な形で進行していくだろう。CS放送は、あらゆるメディアと連携しなければならない。毎日が変化していくだろう。モバイル、インターネット、ポッドキャスティング、DVD、VODと連携する発想は当然である。それも個性的なコンテンツ、個性的なブランドを武器とするノウハウである。多チャンネルへの口火を切ったのはCSなのだ。競争を楽しむ。そういう自由感から、CSは生き残り、育ってきたのである。
最後に、今、私はひそかに、2007年以降にどうしても放送したいと思う番組を交渉している。『モンティ・パイソン』である。『空飛ぶモンティ・パイソン』は30年前に私が東京12チャンネル(現テレビ東京)に持ち込んだものである。その番組の前哨といわれる、地方局でつくられた『モンティ・パイソン』(原題『At Last the 1948 Show』『Do Not Adjust Yourself』)が見つかった。この秘蔵のモンティ・パイソンをどうしても放送したい。その交渉に二年をかけている。こうした「遊びの情熱」を実現していく、それがCSである、新しい多メディア感覚であると洋画★シネフィル・イマジカスタッフ一同は、信じている。
重延 浩
〈洋画★シネフィル・イマジカ ゼネラルプロデューサー、(株)シネフィル 代表取締役会長、(株)テレビマンユニオン 代表取締役会長〉
※資料として総務省広報資料、日本経済新聞社の記事、サテマガ・ビーアイ(株)の月刊B-magaの記事などを参考にさせていただきました。
※2006年12月発行時の原稿をそのまま掲載しました。
洋画★シネフィル・イマジカでは、映画解説、インターミッション等を含んだ時間を放送時間として表示しています。
放送番組スケジュール・内容は予告なく変更されることがあります。
本サイトに登録されている情報、映像等を権利者の許諾なく使用することを禁じます。
Copyright(C) 2000-2008 Cinefil.Inc. All Rights Reserved.